悲しみの選択 未読スルー
「・・・タクシーで帰ろう」
病院から出ると、陽が傾きかけ、カラダにまとわりつくような暑さになっていた
負けた試合からの帰り道のように、車内ではしんみりとコトバ少なだった
飛び飛びに見えるマドの景色の中のヒト達は、夏休みがスタートしたばかりともあって、みな楽しげに映った
ぴょこの孤独感をイッソウ深く浮き彫りにさせた
ピンポーン♪
・・・まずい汗
まだ、ぴょこの中でセイリセイトンできていない内に、様子伺いのメッセージがきてしもうた
オトウト吉は、ぴょこを上回る❤ママ吉LOVE人間❤
TVでおかん大好き芸人を見て共感しまくり、うひょうひょ喜んでいるようなヤツだ
「ダイジョウブだったよ!」
こんな、返事を待っているに違いない
オトウト吉はまだ就業時間中・・・
4月から新たな環境になり、まだキンチョウして業務にあたっている最中だ
気がフレてもなー
シミュレーションをしてみる
A:メッセージを開く=既読スルー
☞異変に気づき、気がフレるかも
B:メッセージをほっとく=未読スルー
☞アレ、疲れてんのかな?
B案にした
あわよくば、メッセージできない状況をモヤモヤ察して欲しかった
オトウト吉が帰宅途中、ママ吉へ電話があった
「あ、オトウト吉ちゃん?うんうん、帰ったら話すよ
おたのしみに~❤」
絶対、察するだろ(苦笑)
*
「ど、どうだった?」
息をはずませながら、オトウト吉が居間に入ってきた
「て、転移?」
タンタンと話すママ吉から、ぴょこへ視線を動かす
意外にも、オトウト吉は落ち着いていた
「動けるうちに、ぴょこと旅行でもしてきなよ」
しかし、病院でママ吉が泣いたことを話すと、オトウト吉も泣そうな顔(..)になってしまった
ママ吉は、所見が細かく書かれたPET検査の検査報告を家族4人分コピーして配った
ツラいけれど、まっすぐ現実をみようということか
オトウト吉は、返却されたPET画像のDVDを再生し、長い間、パソコンに向かってた
*
「ワタシは、末期がんなのよ!」
いつの間にかぴょこは寝ていたらしい
階下から、遅くに帰宅したパピィ(パパ)へ強い語調で話すママ吉の声がした
申し遅れましたが、パピィはかなり変わってますユニークです
バリバリ理系だから?
国語がニガテ、ヒトの気持ちを読むのがニガテ、基本1人称の世界に住んでいるカンジ
パピィが具合悪い時は「病院へ連れていって、たぶん入院になる」というが、逆は絶対なし
昔、実験で風邪で寝込んでいるママ吉の代わりに抱き枕を布団に寝かせていたら、ドアから青い抱き枕に向かって声をかけていた・・・
まだまだ、エピソードはたくさんあるけど・・・(苦笑)
*
やれやれ
長い1日だった
ぴょこの職場のボスにも報告を済ませると、キンチョウの糸がほどけた
急に、嗚咽がでた
今日のハイライトみたいに、ぐるぐると画像がでてきた
ふと、昨日の仕事帰りにママ吉と駅で待ち合わせ、夕食をとった光景が浮かんだ
駅のロータリーを見下ろせる、昔ながらの喫茶店
小さいころから何度も何度も来ている
オーダーを済ませ、料理を待っている間にママ吉が言った
「ぴょこちゃん、実はね、今日、カバン2つ買っちゃったの」
テレビショッピングで、ぴょことママ吉分を買ったらしい
たいそう気に入り、放送中に電話して色違いを注文されたそうな
ぴょこがスマホで調べ、見せると更に気に入る情報があったようで嬉しそうだった
「PET検査やら、明日の病院やら、ぴょこちゃんお仕事休んで迷惑かけちゃったでしょう?そのお礼よ❤」
昨日より前に戻りたい
もう、昨日だってママ吉のカラダに転移はあった
でも、知らなかった
知らなくて幸せだった
*
告知を受けたのは、金曜日
土日のマルマル2日間、ぴょこは寝たきりになった
ハマっていたはずのヨガも行きたくない
おなかもすかない
ぴょこ以外の家族は、いつも通りに過ごしているように見えた
夜中に起きても、これからの不安がつのり、スマホ検索してしまう
ジブンでも気がどうかしとるなとは思った
気分が落ちるところまで落とす
納得いくまで、悲しむ
悲しいなら、とことん泣く
あれだけのことを目の前で見聞きしたんだもん
ココロの消化に時間がかかるのは当たり前だ!
シゴトに戻る月曜日までに、リセットさせるさ
待っとき