鳴り響く電話 アラーム
家の電話が鳴った
日曜日 9:30am
「・・・あ、ハイ」
オトウト吉が電話をとった
病院のようだ
ヤな予感しかしない
「・・・すぐ行きます」
受話器を置いたか置かないかのうちに
ナミダ声で言う
「パピィ、血圧が下がって60台しかないって・・・
・・・もう、反応がないって」
ママ吉とぴょこは全身固まってそのコトバを聞いた
「タクシーだ、タクシーで行こう」
ママ吉のせっぱつまった声
ぴょこは受話器を上げた
ぴょこら3人は、元々10時に家をでる予定でいた
この1週間でパピィが目に見えて弱ってきたこと
昨夜、お別れの挨拶をヒトリヒトリに告げたことと
懸命に目を見開いて家族の姿を追っていたこと
それらが気になり、早めに面会に行くと決めていた
でも、間に合わなかったか・・・
10:00am 病院着
小走りで駆け込みながら
休日夜間入口の守衛さんに一声かける
面会受付をしてバッチをつけてるヒマなんてない
エレベーターを連打する
遅れてきたママ吉も追いつき、乗り込む
ドアが開いた瞬間
飛び出たのはママ吉だった
ナースステーションのコーナーを曲がって
オトウト吉、ママ吉、ぴょこの順でパピィの部屋へ
「パピィ~!」
個室の入り口をくぐった途端、ママ吉が叫ぶ
すると
描いたシワが薄くて若く見えすぎる汗
へ?
ぴょこら3人は膝から崩れた
脱力した
意識も反応もないと思ってたパピィ
返事をして、顔をコチラに向けたのだ
生きてる!
泣きながらも笑いがこみ上げてきた
「良かった、パピィ生きてて意識あった!」
「お休みのところ、驚かせてごめんなさい・・・
反応なかったのは貧血状態だったみたいで・・・」
申し訳なさそうな表情で声をかけられた
良く見るとかわいらしい看護師さんがベッドの向こう側に立っていた
いえいえ、パピィの容態の変化をキャッチして
電話もらえてうれしかった
昨日の様子から、早く来ようと準備していたし
看護師さん曰く
-腹水が横隔膜を押し上げ、肺が潰され呼吸苦に
☞ベッドの頭を上げると呼吸多少改善
-しかし、上げたままだと頭に血が行かなくなる
☞呼吸が安定したら頭を下げるで落ち着いた、と
血圧 87/56
フツウの元気なひとなら、頭上げたままでも問題ないよな
血を全身に行き渡らせる程の心臓のチカラもないんだろうな
目を瞑っているパピィ
コポコポコポ・・・
昨夜から始めた酸素
今日は、鼻からじゃなくてマスクになってる
酸素量も1リットルから3リットルへ
口を開け、胸をつかって息してる
息を吐くとき、低くアーという
手指には酸素量を計る、ピンチみたいなパルスオキシメーター
心電図、血圧、心拍数、呼吸数、血中酸素飽和度
刻一刻 数値が変わるモニター
個室に移った2週間前からモニター管理になった
パピィは時々指を振ってオキシメーターを外し
気づくと握っている
ピンコーンピンコーン 異常を知らせるアラーム音
・・・いやいや、それじゃ計れないからパピィ
指先に戻す
しばらくすると、口元に手を当ててる
スーーーーー
今度は酸素マスクをズラしてる
ん~?かえって苦しいのかな?
マスクを浮かすぴょこ
その手にパピィの手がのった
目を開くパピィ
ぼんやり
見ている方向も左右ズレがある
意思をもって開いているカンジではなかった
黒目は白っぽく褪せて見える
0:30pm
突然、パピィがベッドサイドに立つママ吉に声をかけた
「ママ吉・・・ありがとう」
涙ぐんで応えるママ吉
-家族みんな、ここにいるよ
「安心だけれども・・・」
アラームが鳴り響く
酸素マスクごしの、こもった小さな声
ハッキリとした会話はこれがサイゴになった